ジャンヌ・ダルクと女騎士

男の誓い

「ええ。それと……若い女性にこんなことを言うべきじゃないかもしれませんが、彼だけはその……行ってないのですよ」
「どこにですか?」
「ですから、その……娼館に、です」
 そう言うと、ピエールはチラリとシモーヌを見た。
「娼館……」
 思わぬ言葉に、シモーヌは大きく目を見開いた。
「男というものは、小競り合いにせよ、戦いが終わると、酒を呑み、そういう所に行くものなのです。けれど、バルテルミさんは、他の人がどんなに誘っても、一人で呑んでるだけなのです。貴女とのことを知らない者はジャンヌに操を立てていると言ったりしますが、私には分かります。バルテルミさんのあいつを見る目は、そんなんじゃない。荷物を見るのと変わりないんです」
「荷物って……」
 ピエールの言葉に、シモーヌが苦笑すると、彼は慌ててつけ加えた。
「ですから、その、『守るべき対象』という意味です」
「そうだと思いました」
 シモーヌがそう言いながら作り笑いを浮かべると、ピエールは真面目な表情な表情になって続けた。
「でしたら、もう少し彼の気持ちも汲んであげて下さい」
「それは、どういう……」
「話をして頂ければいいのですよ」
 彼がそう言った時だった。誰かの足音が近付いて来たのは。
「ピエール? 物資のことで揉めているのか?」
 そう言いながら。
 黒髪に、少し伸びた無精髭の背の高い、精悍な青年。彼は、ピエールの傍にいた修道女を見て、目を丸くした。
「まさか……シモーヌか……?」
 修道女姿なので綺麗な髪は見えないが、整った顔立ちに澄んだ瞳を見て、青年がそう尋ねると、彼女はこくりと頷いた。
「じゃあ、私はもう行きます。後は二人でゆっくり話して下さい」
 少しニヤッとしながらピエールはそう言うと、すぐにその場を後にした。
「まさか、修道女とはな……」
 そんな彼の後姿を見もせずに、困った表情でバルテルミと名を変えたバートはシモーヌを頭の先から足の先まで見回した。
「私の夫は、唯一人のつもりですから」
 シモーヌはそう言うと、胸元のロザリオをギュッと握りしめた。
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