ジャンヌ・ダルクと女騎士
5章 嫉妬の嵐

ジョルジュの嫉妬

「ふぅ……。いい加減、戻るか。いつまでもここに居る訳にもいかないもんな」
 辺りは既に暗い。だが、だからこそ、少し欠けた月の光が温かく、星の光が見慣れた町の風景も幻想的に見せていた。
 だが、ジョルジュにはそんなこともいつもの光景にしか見えなかったのか、そう呟くと、大きな樹の枝から下を見て、トンと飛び降りた。
「兄貴もきっと探してるだろうし……」
 明日で18歳の誕生日を迎える栗色の巻き毛の少年はそう呟くように言うと、口の端に笑みを浮かべた。
 どうやら、もう兄への複雑な気持ちも整理出来たようで、自分のことを兄が心配してくれているに違いないということが、彼を少し照れくさいが、幸せな気持ちにしてくれているようだった。
 マルクは自分のことを「過保護」と言っていたが、弟の彼もそれを甘んじていて、そのことに幸せを感じているようだった。決して、人前では認めないが。
「あれ?」
 そんな彼が人の集まる酒場に向かって、小高い丘を折り始めた時、何かを振り回す様な音と聞き覚えのある声が聞こえてきて、思わずそう呟いた。
 見ると、少し開けた所で、背の高い逞しい男が、少し背の低い者に訓練をしているようだった。
「……ええ、そうです。そんな感じです。初めてにしては、筋がいいですね」
「そうですか? でも、思ったより長いし、重いので、扱いにくいです」
 そう答えたその声は、可愛い澄んだソプラノで、月明かりの下に見えたその髪は、黒く長い巻毛だった。
「……何で……」
 思わずジョルジュはその姿を見てそう呟いたが、慌てて口を塞ぎ、茂みに隠れた。
「今、何か聞こえませんでした?」
「いえ、私には、何も……」
 槍の端を持って、持ち方をシモーヌに指導しているマルクはそう答えたが、周囲を見もしなかった。
「ジョルジュさんってことは……?」
 すると、マルクは微笑んだ。
「あの子だったら、出て来て、文句の1つでも言っているでしょう。私が教えることはないってね。きっと、動物でしょう。この辺りは、兎や鹿も出ますから」
「そうですか……」
 そう言うと、シモーヌは又視線を槍の方に戻した。
「大体、この辺りを持つと、バランスが取れて動かしやすいと思いますよ。レイピア等に慣れていると、最初は長い槍は持っているだけで、辛いでしょうが……」
「練習します。まだ私じゃ、役に立たないと思いますが、少しでも役に立てるよう、頑張ります」
「その気持ちだけで、充分嬉しいと思いますよ」
 そう言うと、マルクは微笑んだ。
 その時、ちょうどシモーヌも彼を見て微笑んだので、二人の顔はかなり接近していた。
「ちょっ……! それは、流石に無しだろ!」
 かなり接近した二人を見て、今にもキスしそうだと思ったのか、ジョルジュは思わずそう叫ぶと、隠れていた茂みから立ち上がって姿を見せてしまっていた。
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