ジャンヌ・ダルクと女騎士

地獄へまっしぐら

「ならば、私も同罪だ。あのボーヴェ司教(=ピエール・コーション)を止められなかったのだからな」
「な、なら、わしも助かるのか?」
「だと良いな」
 だが、ジョフロワは何度も首を横に振った。
「む、無理だ……。あの聖女様が何度も『イエス様、イエス様!』と叫ぶ声が耳から離れねぇ……。わしはもうダメだ。助けて下せぇ!」
 そう言うと、修道士の手にすがりついて、再び泣き始めた。
「私もだ……」
 その時、二人のすぐ傍でそう言う声がし、ジョフロワとイザンバールが振り向くと、そこにはジャンヌの酷会を最後に聞いたマルタン・ラドニュ修道士が居た。青い顔をして。
「あの娘は、辛かっただろうに、最期まで神を呪うような言葉を口にしなかった。最期まで神を信じ、救いを求めていた。私には、今でもあの娘が異端や、まして邪悪であるとは、とても思えない……」
 その言葉に、二人も黙って頷いた。
「私達は、何と罪深いことをしてしまったのだろうか……」
 その呟きは、マルタン修道士のものか、それともイザンバール修道士のものか、分からなかった。
 だが、はっきりと言えることが1つだけあった。そこにいた3人が3人共、罪の意識にさいなまれていたことだった。

 ガシャーン。
 その頃、マルジー邸では、午後のお茶を用意していたのだが、カップが床に落ちて、割れてしまっていた。
「申し訳ございません、奥様! 今すぐ片付けます!」
 メイドがそう言いながら掃除しようと欠片に手を伸ばすと、「手伝うわ」と言いながら、姑のジャンヌ・ド・マルジーに息子を任せていたシモーヌも手を伸ばした。
「これは……」
 カップに描かれた百合の絵が見事に二つに割れているのを見て、シモーヌは思わずそう呟いた。
「若奥様、お怪我をされてしまいます。どうか、そのまま……」
 そう言いながら、彼女の手から割れた欠片をメイドが取ろうとした時だった。
「乙女が……亡くなった……?」
 その言葉にジャンヌは思わずシモーヌを見、メイドも固まって彼女をじっと見詰めた。
 やがて、ジャンヌは溜息をつくと、話し出した。
「そのうち耳に入るだろうから、言っておくわね。今日、火刑の予定なのだそうよ」
「では、まさか、もう……?」
 そう呟くように言うシモーヌの目には、涙が溢れてきていた。
「それは分からないけれど、火刑を急いでいる人がいるというのは、事実のようね」
「ピエール・コーションですか?」
「まぁ、よく知っているのね!」
 ジャンヌが大きく目を見開きながらそう言うと、シモーヌは少し困った笑みを浮かべた。
「乙女とは、何度かお会いしたことがありますので、幽閉されていた時も様子を見に行こうとしたのです。流石に
、出来ませんでしたが……」
「そうでしょうね。ピエールが近況を知ることは何とか出来ても、見に行くのは難しいと言っていたから……」
 ジャンヌがそう言った時、シモーヌの目に溢れていた涙がこぼれオチ、彼女はハンカチで涙を拭った。
「泣かないで、シモーヌ。ひょっとしたら延期されて、無事でいるかもしれないし、それに、貴女にはこの子がいるでしょう?」
 ジャンヌがそう言いながら幼い赤ん坊の寝顔を見せると、彼女は頷いた。
「はい……。分かっております。分かってはいるのですが、不安そうな乙女に『傍にいる』と言ったのに、それすら守れなかった自分が情けなくて……」
 そう言って再び涙を流すシモーヌに、ジャンヌはそっと近付くと、その頭を軽く撫でた。
「しょうがないわね。じゃあ、思う存分、泣きなさい。この子のことは、私が見てるから」
「ありがとう……ございます……」
「乙女の刑が本当に執行されたのなら、きっとフランス中で涙が流れているはずだしね……」
 そう言う彼女の目にも、いつしか涙が溜まってきていた。
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