猫の恩返し
「「「ご馳走様でした」」」


「いえいえ、そんなにおもてなし出来なくて悪かったね」


玄関先で揃って挨拶してマンションを出る頃には、頭の真上で月が煌煌(こうこう)と輝いていた


『ホントに電車でいーの?俺、送るよ?』


そう言って車を出そうとする係長を皆で制止し、他愛ないことを喋って歩く牧野と下村の斜め後ろを黙って歩いた

牧野は反対方向、下村は違う線ということで、駅に着いて別れを告げ、ナツと2人電車に乗る


「トーゴ、今日楽しかったね」


ナツの足元には女物のサンダル

係長の昔の女が置いて行ったそうで、処分するにしきれなかったものをナツが履いて帰ってきた


「ああ」


「また、皆であーやって騒ぎたいなぁー」


「そうだな」


「夜景も見に行こうね」


「分かったって」


この時、ナツがどんな想いでそんなことを言っていたのか───

その時の俺は、知らなかった
< 122 / 215 >

この作品をシェア

pagetop