猫の恩返し
風呂場を出ると、俺の腕からするりと抜け出て飛んで逃げる


「ちょっと、待てよ。お前、まだビショビショだろ!」


追っかけ回すが、猫の素早いこと

ヒョイと本棚の上に飛び乗って、壁際にへばり付きこちらの様子を窺っている


「エサやるから降りて来いって」


なかなか降りて来ず、ふと思いついたのがエサ

買ってきた猫缶を皿に開けて目の前に見せびらかすと、鼻をフンフンと動かす

俺の目を見て、動こうかどうか迷っているらしい


「ほら、こっち」


エサを床に置くと、ソロソロと下りてきてエサを食べ始めた

それをチャンスとばかりにドライヤーで体を乾かすと、俺の方を一回振り返っただけで一心不乱にエサを食べている


逃げると思ったんだけどな…

ま、こっちの方がやりやすくていっか


少し拍子抜けしたものの、大人しいのをいいことにガシガシと毛を逆立て乾かした

乾いてみると案外綺麗な毛並みらしく、真っ黒な毛は蛍光灯の明かりを受けてツヤツヤと輝いている
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