麗雪神話~炎の美青年~
「…………」

セレイアもディセルも、しばらく言葉がなかった。

何か言葉を発することがためらわれた。

発すれば、誰かを責めるか、誰かの味方をするかしてしまいそうだった。

春風のごとき美女アーシャ…ブレイズの母。彼女をめぐって、そんないざこざがあったなんて…。

「だから父さんたちは特に火の部族長アル=ハルを嫌ってる。その息子のブレイズも。憎むよう言われて育った。だから仲良くなんて、なれっこないんだよ」

アヴァが悄然と肩を落として呟いた。

「それは違うわ」

事情を教えてくれた。彼らは少しずつ心を開いてくれている。

―だからどうか、この言葉が届きますように。

そう祈りながら、セレイアは思いを声にした。

「いつだって、今からだって、やり直せるのよ。どんなにすれちがって、喧嘩しても、やり直せる。だってみんな生きているんですもの。死んでしまったら、もうやり直せない…私もね、大切な人を失ったの。もう、やり直せない。何もできない。それほど辛いこともないわ。生きているなら、機会がまだあるなら、やり直しましょうよ」

ビッチィの瞳が揺れた。

「そんなこと、できるかな…」

「できるわ! 私が保証する!」

力いっぱい頷いて見せると、族長候補たちの顔つきが変わった。

皆少し、笑顔を浮かべている。

このおかしな女にはかなわない、そうとでも言いたそうな表情だ。
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