麗雪神話~炎の美青年~
しかし―

あるはずのないことが起こった。

ヴェインが長い槍をくるりとまわし、ディセルの攻撃をやすやすと防いだのだ。

見れば、壁にぶつかるはずの槍が、壁をすりぬけている。

(まさか、もとは霧だから、自在にすり抜けさせられると…!?)

ディセルの氷の剣には、そんな芸当はできない。

「どうしたの? 向かっておいでよ」

「…くっ!」

絶対的に不利な状況下の中で、ディセルの胸に愛しいセレイアの顔が蘇った。

最後に見た時、泣いていた彼女。

あんな別れ方、絶対にいやだ。

こんなところで、殺されてたまるか。

「うぉぉぉぉっ!」

槍の死角となる懐に、ディセルは剣を構えて勢いよく飛び込んでいった。

途中、槍の先が腕をかすめ、鋭い痛みが走ったが、構ってはいられない。

多少の怪我は覚悟で、ヴェインを仕留めるのだ!
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