麗雪神話~炎の美青年~
二人が路地裏を駆けて騒ぎの中心へ向かうと、やがてもはや見慣れてしまった紫色の霧が見えてきた。

広場を中心に発生しているようだ。

ディセルがほっと胸を撫で下ろしたような声で言う。

「ふう、でもよかった。あれだけ広い場所なら、風車ですぐに流せるね」

その台詞に、セレイアは苦虫をかみつぶしたような顔にならざるをえなかった。

「……それは無理よ」

「え?」

「この国に風車の技術はないの。ゴーグルもよ」

「え………なんで? トリステアが教えれば済む話じゃ」

「それが……」

セレイアは霧へ向かって走りながら、ディセルに複雑な政治の駆け引きの説明をした。

風車の技術もゴーグルの技術も、トリステアは安売りできない。それが政治の駆け引きの対象になるからだ。見合う技術提供がなされるならば、トリステアも技術提供を返すことができるのだが、…。ほぼ国交もなく、このアル=ラガハテスには、風車に見合った技術もないため、この国は霧に対して脆弱なまま、今に至るのだ。

「そんな…じゃあ今までは霧が出たらどうしていたの」

「引っ越しすると聞いたことがあるわ。テント暮らしだから、比較的簡単なの」

「………」

黙ってしまったディセルに、セレイアはできるだけ威勢のいい声をかけた。

「とりあえず、霧の虫化をお願い! 倒してみんなを守るわよ!」

「…、わかった!」

今はあれこれと考えている暇はないだろう。
< 26 / 176 >

この作品をシェア

pagetop