麗雪神話~炎の美青年~
「我がアル=ラガハテスには、古くより伝わる慣習があります。
族長となる各部族の長子が、その資質を見極める試練に挑むのです。我々はそれを“成人の儀”と呼んでおります。
成人の儀にはそれぞれの部族に伝わる四つの国宝を身に着けて参加せねばなりません」

その話ならばセレイアも聞いたことがあった。

確か、何か宝飾品の類だったような…。

「 “四精の首飾り”と呼ばれるものです。風の部族アル=イーオウには風の、水の部族アル=リスパには水の、雷の部族アル=カゼルには雷の、そして我が火の部族アル=ハルには火の首飾りが古くより伝わり守られてきました。
実はそれが最近…何者かによって盗まれてしまったのです」

「えっ!!」

セレイアは首飾りが盗まれたことそのものより、その事実を一介の旅人である自分たちに教えることに驚いた。国の威信にかかわる話だ。

しかしアル=ハルの堂々とした様子からは、“国の威信”に傷一つ見当たらない。

セレイアの考えを読んだのか、アル=ハルが苦笑した。

「もちろん、誰彼構わずこの話をしているわけではありません。知っているのは、本当にごく一部の者のみです。我が国は部族同士がその…仲があまりよくないので、いっそ部外者であるあなた方に協力を頼んだ方がことはややこしくならないのです」

そう告げたアル=ハルの目はどこか寂しそうだった。
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