麗雪神話~炎の美青年~
いまだ癒えぬ傷をかばうように胸に手を当てると、セレイアは無理やり話題を変えた。

「ブレイズさんは、武芸はどうなんですか? もしかして短剣が得意…とか」

いまだに酒場で短剣投げをしていたあの男のことが拭い去れずに、セレイアはそう尋ねた。するとブレイズは少ししゅんとなったようだった。

「お恥ずかしい限りですが、僕は武芸全般がだめなんです。体術も、槍術も、もちろん短剣も、ここいら一帯で皆が使う湾曲刀も…はあ」

「それなら、槍術と体術だったらお教えすることができますよ」

「本当ですか」

「どちらにします? 基本は体術からがいいでしょうかね」

「では、体術を……」

セレイアが手取り足取り教えようとブレイズの背後にまわったところで、どこからかディセルがすっとんできた。

「ちょっと待ったぁ!」

「? ディセル、何をそんなに慌てて」

鬼気迫る表情に、原因がぴんとこない。

ディセルは睨むようにしてセレイアたちをみつめると、こう宣言した。

「俺が教える」

「えっ! ディセル、体術なんて…」

「できる!!(やれば)。いいからセレイアはさがってて」

言うなりディセルがはじめたのは体術でもなんでもなく、ただのとっくみあいだった。

だがその動きが面白いらしく、旅芸人の子供が二人にまとわりつき、はしゃぎまわって喜んでいる。

ブレイズも嫌がっているそぶりはないので…ま、いっか、とセレイアは視線を転じた。

すると少し離れたところにかがみこむカティリナの姿が目に入った。

何をしているのかと思ったら、野の花をみつめてそっと手を添えているようだ。

その唇の端が少し持ち上がっているのを見て、セレイアは嬉しくなった。

―やっぱり、カティリナさん、笑顔が似合う!

「素敵な花ですね」

セレイアが近づいて話しかけると、カティリナは笑顔を引っ込めて慌てたように視線を泳がせた。

「別に……これは…かわいいと思っていたわけでは…」

「かわいいですよね」

要するにかわいいと思っていたのだろう。セレイアの微笑みをどうとったのか、カティリナはまたいつもの隙のない無表情に戻った。それがセレイアにはとても残念だった。

「花、好きなんですか?」

「いえ」

あいまいに答えた後、カティリナはぽつりとつぶやいた。

「私には似合いませぬゆえ」

「え?」

「もういいでしょう。……帰りにまたここに寄ってアル=ハル様にこの花を持って帰らねば……」

ぼそぼそと言いながら、カティリナはセレイアから離れて行ってしまった。

けれどなんだか、彼女の新しい一面を知って、カティリナとも少し仲良くなれそうな気がするセレイアだった。
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