麗雪神話~炎の美青年~
アル=ハルはなぜ命を狙われる可能性があるのかを訊ねてこなかった。それはディセルが正直だったからだ。彼の人柄をわかってくれたのだろう。命を狙われているとしても、それは彼のせいではないと。

「ブレイズの護衛役、見事にやりきってくださって、ありがとうございました」

話が変わった。

和やかな口調と変わった空気に合わせるように、カティリナが酒を持ってくる。

アル=ハルは差し出されたジョッキの酒を一杯、豪快に飲み干した。

「成人の儀まであと6日。おかげでなんとか首飾りも戻り、一同安心しております。しかし、成人の儀そのものに、不安がつきまとうのは事実。
成人の儀は、次期族長が集まって、“聖なる森”の中で行われます。しかし首飾りを盗んだ吟遊詩人という男のことが気になります。またしてもブレイズを付け狙うかも知れない。最近は森の中で霧が発生したとも聞いております。そんなところに息子をたった一人で送り出すのは、気が引けると言うもの。
そこでお願いがあります。
成人の儀においても、ブレイズのそばにつき、護衛役となっていただけませんか」

「え……」

正直意外な依頼だった。

ディセルの命が狙われている可能性について話したばかりなのだ。

ディセルを護衛につければ、逆にブレイズを危険にさらすことになるかも知れないと言うのに。
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