麗雪神話~炎の美青年~
ラウール砦。

真四角の建物の屋上全体と、各階からせり出した無数の足場が、プミールの発着場となっている。歩きながらしばし見上げているだけで、たくさんのプミールが行きかっているのがわかった。

近づいてくると、砦の一階部分に人の背丈の三倍はありそうな巨大な鉄扉が見えた。あれが関所だ。鉄扉の両脇には黒い石でできた尖塔風の小屋が建っている。一階部分全体が関所となっているようだ。

旅人の姿は見るからにまばらだった。

アル=ラガハテスとの間に目立った国交はないのだから、それもそのはずだ。

セレイアは用心のため結い上げていた髪をほどき、深く外套のフードをおろした。

顔見知りがいたら、騒ぎになってしまう。

姫巫女が国をあけるなど、前代未聞のことなのだ。それもまともな供も連れず、謎の青年と二人きりでなど。

大巫女ハルキュオネのはからいで、セレイアは公的には霧の多さを憂えて長い祈りの期間に入ったとされている。いつ終わるとも知れぬ長い長い祈りの期間に。

だから二人は仮の顔を旅の兄妹ということにしていた。

ここでもそれをしっかりと演じ切らなければ、旅は続けられない。
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