麗雪神話~炎の美青年~
「だがそんな私はここではちょっと変わり者らしい。この国では、資源を奪い合っての争いが絶えないのです…そして」

アル=ハルがどこか遠くをみつめながら続けた。

「カティリナのような子が生まれる……」

それはどういう意味だろうと二人は思ったが、何も言わずにアル=ハルの言葉の続きを待った。

「トリステアにはあまりいないでしょう。カティリナはいわゆる、戦災孤児だったのですよ」

―戦災孤児。

自国の領土を数百年も守り通し、自ら戦を仕掛けることのない温厚な国トリステアにおいて、その単語が耳慣れないものであることは事実だった。

「カティリナはあの通り、北方の血が濃く、美しい外見をしている。だから奴隷にと欲しがる者が少なくなかった。そして彼女は買われ、生きていくために人を殺す道にひきずりこまれてしまった…」

「暗殺者……」

カティリナの迷いない太刀筋を思い出し、セレイアはうなった。

カティリナは幼くして暗殺者の教育を受けてきたのだ。

「そうです。生きるために、食べるために、人を殺せと命じられてきた。そして彼女は、私を殺しにきたのです」
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