……っぽい。
 
「たぶんアイツ、この騒ぎが職場にバレます。バレたらさすがに居られなくなりますよね。だから、よかったですねって。アイツのほうが先輩の前から姿を消すことになりそうで」

「はうっ!!」


ニヤリ、笠松の顔が悪巧みのそれになる。

まさか笠松、真人の職場にたれ込みをするつもりなんじゃ……いや、笠松ならし兼ねない。

いやいや、絶対する気だこの顔……!





その後、たっぷりとデートを満喫して部屋へ帰ると、笠松は案の定、真人の職場である銀行の名前や電話番号などを尋ねてきた。

……そりゃあもう、しつこいくらいに。

あまりにしつこいので仕方なく取っておいていた名刺を差し出すと、笠松はそれをガラス製の灰皿にポイと投げ入れ、なんの躊躇もなくライターで火をつけ、チリチリに燃やした。


「あれ、たれ込むんじゃなかったの?」


聞いた私に、笠松は笑った。


「俺がしなくても、取っ組み合った彼女の誰かが、きっとたれ込みますよ。俺は火炙りの刑で満足です。だって、先輩はもう俺の彼女だし」

「笠松格好いい~!!」


その日の晩ご飯のハンバーグは、いつもの5割増しで上手に焼けたような気がする。

笠松のは、もちろん特大サイズのハート形だ。
 
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