……っぽい。
 
そして。

急に般若のごとく表情を豹変させた千晶は、温厚な彼女からは想像もつかないくらいのドスを効かせた声で、こう吐き捨てたのだ。


「……つーか、いい加減気づけよ鈍感野郎」

「ちちちちあき……?」

「あんた、就職してから今まで、ずーっと先輩先輩先輩先輩って、あたしのことバカにしてんの!? 同棲したら先輩って言うの収まるかと思ってたら全然違うし!あんたも珍獣よ!」


どうやら俺は、自分の気持ちにも、千晶の気持ちの変化にも鈍感すぎだったらしい。

その後は「好きじゃない」「好きなんだよ!」「好きなのは千晶だけだって」「キモいのよ珍獣大好き鈍感野郎!」とケンカになり……。

せいぜい珍獣とお幸せにっ!--そんな捨て台詞を吐いて、千晶は1年と少し同棲したこの部屋をあっさり出ていってしまった。


それが、年明け1月。

そして、泣きっ面にハチの珍獣を飼い始めたのが、新年度が始まったばかりの4月の半ば。


千晶に言われて、出て行かれて、それでも俄には信じられなかった、自分の恋心。

こうして珍獣を自らの意志で飼ってしまったということは、おそらくそういうことなんだろうと認めざるを得なくなった、というわけで。
 
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