Switch
「政吉さんは、そんな店からお嬢さんを出してやりたかったんじゃねぇかい? もちろん駆け落ちとかじゃなくて、ちょっとした息抜きに、お嬢さんのことなんざ知らねぇ人しかいないところへ連れて行ってやろうと思ったんだろ。店やその辺じゃ、常に店の名前がついて回るしな」

「……誰も若様を知らないところであれば、若様も誰に遠慮することなく、男の格好も出来ると思ったんですがね。どうも、男の格好のほうが慣れないようで」

 政吉的には、旅の間は誰の目を気にすることなく男に戻れるだろうと思っていたのだが、お嬢さんは女装を止めなかったのだそうだ。

「もう何年この格好で過ごしてきたと思ってんのさ。今更いきなり男になれったって、無理な話だよ。すっぴんで他人の前に現れるなんざ、恥ずかしくってさ」

「なるほどなぁ……。そんなもんか」

 その辺りのことは、よくわからないが。
 貫七はしばしおりんを撫で、う~む、と考えた。

「お嬢さんはさぁ、男に戻りたい、とは思わないのかい? 無理だとか、そういうのは抜きで。戻れるもんなら、戻りたいかい?」

 真剣に問う貫七に、お嬢さんも真面目に考えた。

「う~ん……。どうだろう。ていうのもさ、私はどうしても、後のことに考えが向いちまうんだよ。私が男に戻ったら、母上は? 店の皆の目はどうなる? 世間の目は? ……そんなことを考えたら、怖くなっちまって、このままでもいいかなって。でもさ、やっぱりいい加減、無理も出てきたよな、とも最近思うんだよ。それこそ、店のこともあるだろ?」
< 175 / 252 >

この作品をシェア

pagetop