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第四章
 昼下がり、裏の畑で貫七は、男と向き合っていた。
 昨夜のおりんの報告を受けて、野良仕事を手伝うことを口実に、男を連れだしたのだ。

 元々まどろっこしいことが嫌いな貫七である。
 だらだら様子を窺うようなこと、いつまでもやってられない。

 初めは娘の傍を離れることを渋った男だったが、貫七の『いつまでもこっちの好意に甘えてるんじゃねぇ。娘さんの身体が治るまでは仕方ねぇがな、お前さんぐれぇ、ちょっとは手伝ったらどうだえ』というきつい言葉に、重い腰を上げた。
 畑の手入れをし、一息ついてから、貫七は持っていた鍬を立て掛け、口を開いた。

「よぅお前さん。あれから随分経つが、俺たちゃあんたの名も知らねぇ。いい加減、名乗っちゃくれねぇか」

「……」

「それだけでも、礼を欠いてると思わねぇかい?」

「それは……」

 困ったように、男が視線を彷徨わす。
 貫七はわざとらしく、ため息をついた。

「娘さんの身体に、何ぞあるんだろう。病じゃないなら、いくら経ったってどうにもならねぇぞ。俺たちだって、いつまでもただ飯食いを置いておくほど、お人好しじゃねぇんだ」

 己のことは棚に上げ、貫七は少し顔をしかめて言う。
 こういう人間には、ずばっと言わないと伝わらないのだ。
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