4月1日

悪あがきをする私に、曽田は最後のトドメを刺す。

「そういうとこ、俺は好きだけどな」

ストレート過ぎる曽田の言葉に、体から力が抜けていった。

5年間、私がずっと言えずに仕舞っていた言葉を、どうして曽田は易々と口にできるのだろう。

その嘘のない温もりを離したくなくて、ジャケットの裾を指で掴む。

私の願いが伝わったのか、髪に軽くキスをすると、曽田がさっきよりも小さな声で囁いた。

「一緒に帰るか」

なんだか急に現実を突きつけられたようで、ぎょっと顔を上げる。

お互いいい年した大人だから、この流れは自然なんだろうけど。

だからといって今?今なの?

今日の下着はなんだっけと酔いの回った頭でどうでもいいことを考えている内に、曽田がタクシーを止めた。

タクシーって、行き先は一体どこ?

「まだ地下鉄の最終間に合うけど」

焦る私の問いは無視され、ぱかりと開かれたドアに押し込められた。

続いて曽田が乗り込み行き先を告げた後、運転手さんに尋ねる。

「運転手さん、今何時ですか?」

「今かい?1時30分過ぎだねぇ」

ちらりと袖から時計を確認し、教えてくれた。

終電なんてとっくに終わっている。

さっきの遣り取りだけで、そんなに時間が経った?

いや、そんな訳ない。

「嘘ついた?」

横に座る曽田をギロリと睨めば、少年のように屈託の無い表情で、腕時計の時間を合わせていた。

「エイプリルフールだから」

「日付過ぎてるし」

「25時とか言えばセーフだろ」

「完璧アウトでしょ」

言い返しながら、何を怒っているのか馬鹿馬鹿しくなって、思わず吹き出していた。

ひとしきり笑い合っていると、後部座席に無造作に置かれた私の手に、曽田が指を重ねた。

タクシーの窓から、淡い桜色に彩られた景色が流れて行く。

情熱なんて激しいものじゃなくて、ただ穏やかな温もりが心地良い。

満ち足りた気持ちの中、エイプリルフールの今日くらいは素直になってみてもいいのかもしれないと、曽田の手をそっと握り返した。


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