オトナの恋を教えてください
「さてと」


母は立ち上がり、深呼吸した。
息を吐ききるといつものしゃきっとした表情に戻っている。
涙の跡なんてどこにも見えない。


「会社に行かなきゃ。……いろは、お見合いの件はわかったわ。断っておく」


「お母さん!」


母の言葉に私は信じられない気持ちで叫んだ。
母がびしっと私に人差し指を突きつける。


「だけど、仕事の件と男女交際の件は別問題。また、折を見て話しましょう」


「あの、お母さん……今、玄関出たすぐのところに、彼が来てるんだけど……紹介したいと思って……」


「調子に乗るんじゃないわよ」


母が倣岸に微笑んだ。
きっと、社長・三条姫子はこういう顔をするんだろうな。

自信たっぷりの女性リーダーの顔で母は言った。


「一日で全部話を納得してもらおうなんて甘い。口説き落としたいクライアントは時間と手間をかけて、熱意と誠意を見せるもんよ。精々、私にどこまで本気か見せてからにしなさい。仕事も恋愛も」

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