オトナの恋を教えてください
「いえ!決裂ではないです!」


笑いながら、答える。柏木さんは訝しげな表情だ。


「じゃ勝てたのか?」


「勝ち負けなら、負けかもしれません。母にはまだ敵わないので。でも、私の権利は守れました」


柏木さんの顔がいっそうハテナだらけになる。
私は笑いながら、柏木さんの頬に触れた。


「仕度をしてくるので、待っていてください。詳しくは会社に行きながら話しましょう」


「え?俺、ハラ痛いって有休使っちゃったんですけど!」


「治ったって言いましょう」


ええーと否定的な叫びをあげる柏木さんを尻目に、私は玄関に引っ込む。

完璧じゃない。

だけど、私はようやく人生で最初の一歩を踏み出したのだ。


それがとてつもなく嬉しかった。





まさか、すぐ立ち止まることになるとは、この時の私は知るよしもなかった。







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