まだ、心の準備できてません!
どうしよう。私、気付かないうちに何かしちゃったのかな。

これからも講習に通うとしたら、もう少し友好的になっておきたいんだけど……。


「あの、私、何か失礼なこと……」


勇気を出して口にしたものの、やっぱり気まずくて言葉尻を濁してしまう。

そんな私を静かに見据える三木さんは、パタンとノートを閉じて小さく息を吐き出した。

げ、さらに機嫌を損ねちゃった?

と、ギクリとしたのもつかの間、彼女の口から出たのは意外な言葉。


「愛想が悪いのは生まれつきです。あなたが何かしたわけではありませんから、ご心配なく。接客や講師をしている時は、役者になりきったつもりで演じているので」


そ、そうなの……!?

ほぼ棒読みの発言内容に、私はぽかんとしてしまった。

じゃあ、これが三木さんの“素”ってこと? 今まで見ていた姿の方が、偽りのものだったのか……。


「間違いなく女優になれますよ……」

「ありがとうございます。でも私にはこの道が一番合ってますから」


思わず呟いてしまった一言に、真剣に返された。

ヤバい。三木さんのギャップがありすぎるこの性格が、だんだん面白く思えてきた。

感情を表さないだけで、根は嫌な人ではないはず。

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