まだ、心の準備できてません!
夏輝さん、か……。相変わらず謎が多い人。

名前しか教えてくれなかったけど、それでも収穫が得られたから、今日のところはまぁ良しとしようか。

あとこのワゴン、言われた通り中へ入れておこうかな……。


小さくなる背中から顔を背け、ワゴンを動かそうと振り向いた私は、お店の入口に人がいたことに気付いてびっくりした。

戸口から覗くように顔を出して、夏輝さんの方をじっと見ているのは阿部さんだ。


「びっくりした~阿部さん。どうかしました?」

「ねぇ、あの人美玲ちゃんの知り合いなの?」


なんだかワクワクした様子で尋ねてくる阿部さんに、私は首を横に振る。


「ううん。この間お店に来てくれたお客さんです」

「なんだぁ、結構話してるから仲良いのかと思った。あの人ついこの間も来てね、店長と事務所で話してたのよ」

「え……お父さんと?」


阿部さんから語られた意外な事実に、私はぽかんとしてしまう。

お父さんと話していたということは、やっぱりお客さんか仕入先の人だろうか。


「美玲ちゃんが休みの時だったかしら。私と浜名さんにも『お疲れ様です』って声掛けてくれたの。イケメンだし愛想も良かったから、すごく印象に残ってて」

「そうなんだ……」

「お得意さんになってくれたらいいのにな~」


浜名さんと似たようなことを言って、ニンマリしている阿部さんだけど、私は謎が深まるばかり。

彼がここに来る真の目的は、いったい何なのだろう──。




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