まだ、心の準備できてません!
土蔵の造りがかなりレトロ感を出している、包装用品専門店“マシロ”に着くと、店の奥の扉に向かう。
そこには短い通路があり、右手に倉庫、まっすぐ進むと事務所がある。二台のロッカーとデスク、あまり使うことがない来客用の小さなガラステーブルとソファーがある、十二畳ほどの部屋だ。
書類や荷物が溢れていて、とてもじゃないけど綺麗とは言えない。これに慣れてしまっているのは、女としていけない気もするけど。
その事務所のドアを開けると、デスクに座るお父さんと、すでに身支度を整えたパートの浜名(ハマナ)さんがいた。
「おはようございまーす」
「おはよう、美玲ちゃん」
にこりと笑う、小柄な五十代半ばの浜名さんに笑顔を返すと、書類が乱雑に積まれたデスクから、お父さんが私に目線を上げた。
縁なし眼鏡の奥の瞳は、私が持っているビニール袋を捉えている。
「どうしたんだ、それ?」
「ちょっとお手伝いしたらもらったの。後で皆で食べよ」
「まぁ嬉しい! 柏さんのおまんじゅう好きなのよ~」
浜名さんはさっそくビニール袋の中を覗いて声を上げていた。
気前のいい人が揃うこの商店街では、こんなことは日常茶飯事だ。
私は産まれた頃からここの人達にはお世話になっているから、皆が良くしてくれるのかもしれないな。
お父さんとはここから一キロほど離れた家で一緒に暮らしているものの、移動は別々にしている。
職場でも家でも一緒だから、通勤の間くらいは一人になりたくて。
友達と遊んでから帰ることもあるし。
彼氏は……特に欲しいとは思わないからいないけど。