課長の独占欲が強すぎです。


 朝はどうしようもなく和泉さんを意識してしまったけれど、仕事が終わる頃にはそれにも慣れ、終業後は普通に「お疲れ様でした」と挨拶を交わすことが出来た。

 一緒に帰りたかったけど、和泉さんはまだやる事が残ってるようで他の部署のフロアを行ったり来たりしている。
 
 忙しそうな彼に挨拶をして帰ろうとするとムッとした顔をされて、「橘、ちょっと来い」とフロアの外へ連れ出された。

 なんだろう、やり残した仕事でもあったかなと思いながら和泉さんの後を着いて行くとそこは誰も居ない階段の踊り場で。

「帰る前にキスぐらいしていけ」

 そんな無茶苦茶な事を言われながら、強引に抱き寄せられてしまった。

「ちょと和泉さん、人が来ますよっ」

「だったらサッサとしろ」

 せっかく冷静になれた心臓がまた鼓動を早くする。

 私は身動きが取れないほど固く抱きしめられた体勢で、顔を上向かせ静かに目を閉じた。瞼の裏に影が落ち、そっと優しい唇が触れてくる。



 おっかない上司と強引に始まった恋は困惑する事だらけで、この先どうなっていくのかなんて分からないけど。

 けれど、特別に優しいキスは私の胸を切ないほど締め付けて、これは間違いなく恋だといつかの『もしかしたら』が満開に花咲くのを感じていた。


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