月だけが見ていた
「私も…会いたかった。」

真っ直ぐに彼だけを見つめて、私は言った。


「……うん。」



冬の陽だまりのように
夏の夕暮れのように
ただ優しく、司くんは微笑む。

少し下がった目尻のシワが懐かしくて
うっかり涙が零れそうになった。


ーーー 10年間 会いたくて

会いたくて 会いたくて



「…さてと、」


司くんが立ち上がる。

そこで初めて周囲を見渡してみると、私たちが腰かけていたのは公園のベンチだった。

…下校中、司くんと立ち寄ってよくお喋りした公園。
すっかり葉を落とした楓の木が一本、寒そうに佇んでいる。
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