泣き虫イミテーション
偽物の理由
いつだって私は二番手三番手だ。一番になんてなれやしない。何をしても、どんなことでも上には上がいて私が一人特別にはなれやしない。
この名前が私に呪いをかけている。かさね。二衣。

「姉さんはこんなことで悩まなかっただろうね…」

二衣のまえに『彼女』がたつ。

「…姉さん」

目覚めた二衣は寝ぼけた頭のまま、自分を抱えるようにして眠る光成の存在にひどく安心して、すがるようにその体温に肌を重ねた。その頃にはもう夢の内容など忘れていて、ただ言い様のない悲しさだけが残る。
 息の詰まる焦燥が、足元から這い上がってくる。その不安を取り除くように光成を強く抱き締めると、それに光成が目を覚ました。

「…二衣さん?」

「ミツ、おはよう」

「ん、はよー。どうかしたの?」

「なんでもない。なんでもないよ」

ただ人肌が心地よく。

光成が思うに橘二衣という生き物は不安定さそのものだ。
何でもできる才能の塊。そんな姉のしたに生まれ、比べられて生きてきた。二衣はどんなことにも努力を惜しまなかったし、姉に追いすがろうと常に必死だった。
それでも天性のものには敵わず、二番手で生きてきたのだ。
姉の下位互換。自分のことをそんな風に考えた二衣は必要とされるために、求められれば応えてきた。
それでも劣等感は二衣を呑み込む。均衡を保ち続けるのにはひどく神経を使った。綱渡りのような日々を二衣は、境界線に揺らぎながらも歩む。

 こんなふうに二衣が甘えてくるのは、何か嫌なことがあったときだ。日頃の付き合いから学んで、踏み込まずただ寄り添う。
しばらくすると二衣の寝息が聞こえてきて、二度寝したかと苦笑した。
平穏なのだ。歪んだまま危うくバランスを保っている。

(最良ではなくても正しい形だ。)


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