泣き虫イミテーション
偽物の虚偽
 冷凍庫から取り出したチョコレートを食む。冷やされてかたくなったそれはパキンッと小気味いい音を立てて割れた。
 濃厚な甘さが口の中に溢れていく。
 朔良たちが帰ってから、静かになった家の中でわざわざベッドを別にして違う部屋で寝ていた。
 情緒不安定な二衣を見ていると、危うさに手を貸したくなるけれど、彼女はきっとその手を払うのだろうなと光成は一人考えていた。
 二衣はまだ起きているのだろうか。
知らず足が二衣の部屋へと向かう。明かりの漏れていない扉を見て、もう寝たのかと何故か悲しい気持ちになった。

(二衣さんの全部を知りたい。二衣さんの心が欲しい。気持ちのすべてを俺に向けて欲しい。)

 光成は眠る部屋のドアに背中を預けて、ペタリと廊下に座り込んだ。
 二衣が少しでも自分を見てくれていたら、こんな風に悩むことなんてなかった。そして満たされない思いは、他の人間で埋めることなんてできない。

「…山の彼方の空遠く幸い住むと人の言う」
(本当に欲しいものは手が届かないところにある。だから)

「欲しくなるんだろう」

 チョコレートを食む。もう冷気は失われていて、柔らかい。
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