泣き虫イミテーション
幕間
「光成くん、一緒に帰れるかな」

 いつぞやの樋之上が、おずおずといった様子で申し出た。周りには少し離れたところに女子が二人いるだけで、他には誰もいない。

「なんで?」

「え?えっと、ほら光成と一緒に居たいからさ、ね?一緒に帰ろう」

 樋之上がわずか袖を掴んで上目遣いに見つめてくる。

「あのさ、一度家にあげたくらいで彼女面されても困るんだけど」

 光成はえがおのまま幼い子をあやすように言った。瞬間樋之上の顔がカッと赤くなり、場の雰囲気がガラッと変わった。

「――っなにそれ!!」

「だって、俺、君と付き合うとか、好きだとか一度も言ってないだろ」

 憤る樋之上とは反対に軽くあしらう。勘違い女のように言われた樋之上は光成の胸ぐらを掴み、耳元で言った。

「言ってやるから、アンタと橘さんが兄弟で一緒に住んでるってこと。言いふらしてやる」

 恋する乙女は姿を消して、鬼のような形相で光成をねめつける。

「やだな、信じないよ誰も。君なんて。」

「説得力なんて持たせればいいだけだもの。なんだったらもっと面白おかしく脚色してあげるから」

 そこでやっと突然の事態に驚いていた女子二人が、光成から樋之上を引き離す。

「何してんのよ、樋之上!」

「光成くん大丈夫!?」

「ごめん、ありがと」

 女子二人に落ち着いた様子で礼を言う光成をきっと睨み付けて、樋之上は走り去った。

「何があったの?」

「あー、告白されたから困るっていったら、怒らせちゃったんた。迷惑かけてごめんね」
「ううん、私たちはいいけど…朱本くんは平気?」

「気にしないで、大丈夫だから」

 眉をよせて微笑む。どう答えれば二人が、自分の味方になるかを考えながら。

「フラレたからって逆ギレって樋之上そういう奴だったんだ。」

「いや、きっと俺の言い方が、悪かったんだよ」

「朱本くんのせいじゃないよ」

 被害者のフリをして、樋之上への布石を打つ。フラレたから逆恨みで変な噂を流したと、そうなるように。
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