泣き虫イミテーション
偽物の代用
(・・・元気がない。ような、気がしなくもない。いや、分かんないけれども。でもなんかいつもより、ねぇ?)

 教室に入ってきた朔良は、すでに沢山の取り巻きにかこまれている二衣を見て思う。ほんのわずかな変化だが、元気がないようなどこかぼんやりした寂しそうな目。
 でも声をかけたりすることはない。いつもそうだが、朔良から二衣に話しかけることはない。二人がたまたま、二人きりになったときだけだ。
 でも心配になる。
 朔良は付箋に一言綴る。ただ思ったことを素直に。「今日元気なくない?」ただそれだけ。不器用な優しさを掃除の時間、机に張り付けておく。もちろん誰にも気付かれないように。
 二衣もやがてそれに気づいた。剥がしてくしゃりと握りつぶす。

(私は酷いから。自分からミツに近づいたり出来ない。これがわたしとミツのルール。寂しくても辛くても、私はミツを求めちゃいけない。私はミツに求められなきゃいけない。)

『君のたった一つを除いて僕のものだ』

(ミツ、たった一つその感情以外はあげるから、ちゃんと私を欲しがってよ。)



愛されたい。
必要とされたい。
下位互換品じゃなくて私を欲しがって。
私を。

ねぇ、ミツ。
君だけでしょ。
私を唯一絶対に―――

「二衣さん」

パッと振り向く。期待に胸が浮いて、そしてしずむ。そこにいたのは光成じゃなくて本当にどうでもいい人。

「真波ちゃん」

「元気ないね。なんか嫌なことでもあった?」

「やだな、元気なさそうに見えた?」

「あれ、気のせいだった?片思いの少女の憂いを体現したみたいな感じの元気なさだったんだけど」

「ふふっ、なにそれー」

二衣は笑って見せる。
それが自分の仕事だとでも言うように。
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