泣き虫イミテーション
偽物の衝動
「怒った?」

二衣の冷たい手が汗ばんだ朔良の髪にふれる。

「たまにこういう意味わかんないことすんのやめてくれよ。心臓に悪い。」

朔良はうつむいたまま、その手にされるがままになっている。

「ごめんね?ちょっと八つ当たり・・・」

「八つ当たり?」

「ミツが私にイジワルするからさ」

「俺、全然関係ないじゃん」

「でも朔良くんは慰めてくれるでしょう」

そういって楽しげに、どこか寂しげに笑うから朔良はなにも言い返せなくなる。
この弱い人を自分の力で守ってあげたいと思ってしまう。バカだ。本当に。二衣はそんなに弱くはない。彼女の纏う蠱惑的な雰囲気は香り立つジャスミンのように、焼き付いて離れない。
そう朔良は感じていた。
 もう罠にかかった一匹の虫のように。
< 35 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop