泣き虫イミテーション
「あんたが望む言葉を俺は持ってないから」

朔良は頑なに否定する。
違う。
絶対違う、と。

(誰がなんといおうと、俺はっ、橘二衣のことは嫌いだ。)

確かに、同情はする。
幼いころから自分より優れた人間と比べられてきたというコンプレックス。そこから生まれた歪んだ願望。
誰かの、誰でもいいから誰かの一番になりたい。なんでもいいから一番になりたい。
でもだからって騙されてはやらない。
その必死さに心揺さぶられてはいけない。
 だからどうか今すぐに、その寂しそうな顔をやめてくれと、朔良は胸中で祈る。
 本当に最初はただ憧れる人だった。好きとか嫌いとかそういう尺度で測るような人間じゃなかった。ただすごいなと称賛の眼差しを送るだけだった。
 そのあと山田をふったときの話をきいて、あぁそんなやつだったのかと失望して、憤りをぶつけて。
 そして橘二衣という人間を知った。
まだ、知っただけだ。
少し近づいて、寂しいときに頼りにされて、間違えているだけ。今も前も好きとか嫌いとかそういう尺度で測る人間じゃないんだ。

 そんな朔良の胸中とは全く無縁に、ビジネスホテルの安いベッドに寝転びながら、スマホをいじる。光成は盛大に暇をもて余していた。

「グノシーでもダウンロードするか・・・」

思わず独り言がこぼれる。

(既読さえつけなきゃいいんだもんな。たしかそのやり方グノシーで分かる・・・。それとも面倒だしもう一代スマホ買うかな)

「二衣ちゃん専用機種とか」

(本当に一人の布団て寂しいなー。二衣ちゃんに会いたい。)

なんて適当に考えながら。

「あ」

ぱっと思い付いたその名案に声が溢れる。

「ちょーっと癪にさわるけど、しょうがないよね。二衣ちゃん大好きだし、他の男にべたべたと手垢つけられたくないからね。」

そしてすぐにその人をコールする。

「もしもし、光成です。今、時間大丈夫ですか。あぁちょっと、七光りを借りたくて」
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