泣き虫イミテーション
偽物の麝香
「…んっ、はぁ…」

仲のいい賑やかな家庭。気さくな兄と妹。対等な友人。才能。自信。愛される実感。

「ぁっ……ん…」

ぐるぐると思考がうずまく。浮かびくる不安を快楽でごまかして、得たものはすべて改悪だ。それすらどうにでもなれと、二衣は貪るように身体を火照らす。

「…ぅんっ…あ…ぁ…」

深く熱い楔を飲み込んで、恍惚に喘ぐ。
瞳に浮かんで睫に絡まった涙に光成がキスをした。

「……二衣さん、好きだよ。」

額に、頬に、瞼に、鼻に、顎に、首筋に、鎖骨に、乳房に、腕に、手首に、手の甲に、腹に、太ももに、爪先に、ゆっくりとゆっくりと口づける。

「全部、俺のものにしたいのにっ……」

息も荒いまま、足先も痙攣して震えるまま、二衣は光成をだきしめる。

「……私にはいつだって姉さんが一番だよ。私よりずっと優れた同じ顔の姉さんがいるんだもの。ミツの好きは、私との契約の結果だ。だから君が好きなのは私自身じゃないかもしれないでしょう」

なら、どうすれば良かったのか。光成は反駁する術もなく柔肌に身体を重ねた。抱き締めて脆く崩れてしまいそうに、肥大した自意識の核心に触れようともがく。
風に揺れる柳のように不安定に、二衣は薄ら笑いでごまかした。

「…ふふっ、もうすぐ私たちの世界は壊れちゃうよ。朔良くんが私を奪いにくる。君から離れて、私どうするだろうね」

「許さないよ……、離れてくのなんて」

「そうだね。私はこの心以外全部君のものだから、君が言うならこの家に閉じ込められていてあげる。」

「うん、あいつなんかにはあげない。好きだよ、二衣さん」

「ミツ、ずっと言ってて。私が眠るまで。それで絶対に目覚めるまで離れるなよ。」

「………うん」
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