泣き虫イミテーション
偽物の暗転
(二衣さんが噂を止めようとしないってことはつまりそういうことなんだろうな)

これは当て付け。光成に対する。光成はそれを理解した上で、その噂を聞き流した。

あわただしく人の動き回る廊下は普段とうってかわって華やかだ。色とりどりの飾りつけやポスターが廊下を賑わしている。

文化祭まであと2日となった。

光成も友人達とならんで暗幕を運んでいた。光成たちのクラスは教室を使っての妖怪カフェになった。男子が女子の猫耳メイドを見たがり、女子が光成の着物姿を見たがったための折衷案だった。

クラスの実行委員が「妖怪なら化け猫もいるし、日本の妖怪なら着物でもおかしくないよ」と折衷してみせた。衣装は持ちよりがほとんどであまりお金をかけていない。いまは教室内の仕切りと飾りつけをやっているところだった。

前から二衣が歩いてくる、衣装姿でだ。はたとそれにみんなして足を止めた。

「…橘さん。」

「こんにちわ、朱本くん」

「ジュリエットじゃないんだね」

衣装を指差しながら聞いた。

「そう、ロミオなの」

光成の顔を見て、隠してきた甲斐があったと愉しげに笑う。騎士のようにもみえる服で、すらりと伸びた足を際立たせる。髪を後ろでひとつにまとめた二衣は男にこそ見えないものの、凛々しい。

そして後ろから心細げに小さな声で二衣をよぶ。

「あー、橘さん頼むから教室に入ろう。おれのメンタルはズタズタだよ」

中世のドレスに身を包んだ朔良が。

「ぶははっ、なに?お前がジュリエットなの!?」

光成の隣にいた男子生徒が朔良を指差して笑う。朔良は羞恥に表情を歪めた。

「黙れ柿本」

「だめだよ、柿本くん。僕のハニーは照れ屋さんだからいじめないであげてね。」

二衣は面白がって、朔良に腕を絡める。

「あー、やめてくれ。頼むから教室に入ってくれ橘さん」

二衣の腕から逃れながら朔良は教室につれていく。そんな仲のいい様子がさらに噂を賑わした。
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