雨に似ている
6月に入ってからは、幾度も保健室で休んだり、雨がひどく降る日は大事をとり欠席したりしている。

梅雨時期は自分なりに、いつもより用心をしているつもりでいる。

――転校し環境が変わったせいもあるのかもしれない

詩月は思ってみる。

詩月が体調を崩すたび、詩月の母親は悲しい顔をする。


幼い頃。
詩月の拙いヴァイオリンを聴きながら、母親が唯1度詩月にポツリ呟いたことがある。


「薬なんて飲まなきゃよかった。腱鞘炎の痛み止めなど飲まなければ」と──。

涙で頬を濡らしながら、折れるほど強く詩月を抱きしめて。

腱鞘炎の痛み止め薬と、詩月の病状。
因果関係は定かではない。

が母親は、詩月が発作を起こすたび、体調を崩すたびに自分を責める。

詩月はいつも明るく優しく、気丈に振る舞い微笑む母親が、夜中に1人泣いているのを知っている。

< 56 / 143 >

この作品をシェア

pagetop