私の優しい人
 だから、凪いでいた気持ちが波打つのに気付いたのは最近。

 啓太さんの転勤が、来年の春が、近づいているからだ。

 私の心が、すぐにささくれ、ガサガサになる。

 その理由がわかっているだけに、対処のしようがない。
 
 おおよそ3年毎の転勤。主な定期異動は春。範囲は全国。

 どれだけ時間が経っても待っても、結局は遠距離。
 運が良ければ中距離。

 話を聞けば聞くほど、彼がこの近距離圏に戻って来る事なんてなさそうだ。

 溜息は数えられない程についている。

 結婚に関する話をしたのは、最初のデートの時だけ。

 彼の結婚に対する気持ちは、出会った時から大きく変わっていないらしい。

 だからと言って、
 例えば、もしも、仮に、彼からプロポーズされたとして、私は躊躇なくイエスと返事ができのだろうか。

 そんな裏腹な気持ちがある。

 あまり執着がないとはいえ、ここまで勤めた会社を辞め、友人と別れ、母を一人置いて、知り合いのいない地へ行かなければならない。

 彼の転勤には終わりがない。

 私にだって迷いはある。

 あり得ないもしも、の話で思い悩むのは時間の無駄。
 溜息と共にそっと振り払う。

 それでも全てが飛んで無くなる訳じゃない。

 遠距離って頑張らなくても続けられるのかな。
 距離があると、頑張らないとだめだし、努力と忍耐が必要になるのかな。

 そうしないと、潰れてしまうのかな。

 この頃の寒さに引きずられるように、私の心は表面から薄く割れていっている気がする。

 でもそのままじゃ私らしくない。
 簡単に寂しさに流されたくない。

 頬を軽く叩く。

 あんまり考えるな。

 弱気を追い払った私はすぐに自分を奮い立たせた。

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