私の優しい人
「里奈ちゃんの好きなやつでいいよ」
 気遣うような態度が、更に私を追い詰める。

 仕方なく、線の細い飾り気のない一つを指さした。

 本当はどれでも良い。

 きっちりとしたまとめ髪の女性店員さんが近付き、啓太さんにイニシャルの刻印を勧めている。

 イニシャルは入れられても、日付は入れられない。

 記念日の日付? じゃあその記念日っていつ?

 出会った日? それくらいしか思いつかない。

 何も言えず、私は横でただ立っていることしかできなかった。


 にこやかな彼と、目を腫らしマスクとストールで防御する私。

 幸せな買い物をするカップルを見慣れた店員さんの目に、私たちはどう映っているのだろう。

 私の気持ちを汲み取ったのか、結局リングの購入には至らず、また落ち着いた日に二人で選ぼうと彼は言う。
 今年のクリスマスプレゼントはきっとこれになる。

 分かったのは、私の右手の薬指のサイズ。

 関節が太くて、そこを抜けるとクルクル回ってしまう。
 どれを着けてもしっくりこない、どこにも落ち着く事が出来ない感じが今の私そのものだった。

 これだけ私達がギクシャクしたのは初めて。

 いつも通りに、そう思っていても、思う程に言う事を聞かない。

 彼には気持ちよく出張に行ってもらいたい。

 なのに、顔が固まって上手く動かせなかった。

 そんな私を許すように、啓太さんは、私の頬をその長い指でくすぐるように撫でる。

 里奈ちゃんはそのままでいいんだよ。

 そう言ってくれている気がして、また泣きたくなった。
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