私の優しい人
 子供だった私、その頃に戻って抱きしめてあげたい。

 同じように、子供だった啓太さんを抱きしめてあげたい。

 小さな私が苦しんだように、小さな彼だって、膝を抱えて、布団に丸まって、眠れない夜があったはず。


 大きくなったら大切な人に出会える。
 大事にしたい人が増える。

 一人じゃないんだよって、教えてあげたい。


 母が、早く結婚しろと急かす理由はわかる。

 わかっていても一人で叶えられる事じゃない。

 不甲斐ない娘でごめん。


 啓太さんから手渡されていたお土産をそっと炬燵の上に乗せる。

 母は啓太さんの存在を知っている。

 啓太さんと泊まる事もきちんと告げた。

 でも、私はきちんと結婚の意志を確認できない限り、彼と母を会わせる気持ちはない。

 ぬか喜びさせるのも嫌だし、彼にプレシャーを掛けるのも嫌だったから。


 出張の度に彼は、母と私に美味しいお土産を買ってきてくれる。

 その土地の名物は、私と母の間に明るい会話をくれる。安心をくれる。

 優しい人、私の大切な人……

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