極上ドクターの甘い求愛



『――この場をお借りして、一つ皆さんにお話があります。』


岩崎先生の一言に、室内の注目が一気に先生に集まったのが分かった。

これまで先生が来てもチラ見くらいしかしていなかった男性陣も、何事かと岩崎先生を見つめている。


『繭ちゃ――咲坂さんが、最近健全な業務をしていないようですが、どういった経緯でそんなことになっているのか、きちんとした弁明をしていただけますか。』


一言目から話の核心を突く岩崎先生の問いかけに、室内にいる職員全員、何も言わない。

岩崎先生に言いつけたな、という周りの目が怖くて、岩崎先生の後ろで私は顔を俯かせた。

うまく、呼吸さえもできそうにない。


『今日も昨日も一昨日も、彼女が昼食の時間も確保できないほど業務に追われていたにも関わらず、皆さんは昼休憩にはここを出払ってましたよね。……その理由を、お願いします。』

「………っ」


昼食も摂れない程に仕事を回されていたことなんて、岩崎先生には一言も言っていない。それなのに、何で知ってるの?

私に仕事を押し付けるだけ押し付けて、薬剤部の方達が皆昼休憩を取っていたことも。

まるで私がこの人達に受けてきた嫌がらせの数々は全て知っているかのような口ぶりの岩崎先生の凛とした後姿を、ただただ見つめた。

その視界の端っこに見えた、こちらを見ている前田先輩と目が合う。その瞬間、先輩から飛ばされたこの場には似つかわしくないチャーミングなウインク。

それを受けて、岩崎先生にこのことをリークしたのは、前田先輩なんだと、この時ようやく察したのだった。



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