王子の結婚

「まずは食事にしようか、用意して」

部屋の端に控えていた女官に指示するとソウも席についた
テーブルの上で手を組んでふっとひと息ついてからユナに微笑みかける

「君は何も悪くないからね、そんな顔しないで」

ソウは動揺してしまっているユナを気遣う

優しくしてくれる彼に、余計申し訳ない気持ちが湧き上がった

噂だけで人を判断していたなんて、なんて浅はかだったのだろう
そして、その自分の作り上げた“ソウ王子”が頭を離れない



ソウの気遣いに便乗し、イルも笑って話しかける

「後宮の女はだいたい兄上に目を奪われるんだ
俺の妃たちも皆、兄上の美しさに心ときめかせてるさ
でもそれは目の保養ってことで、俺のことを慕ってる
俺の魅力には勝てないってことさ」

わざとらしく品を欠いて笑い、カイに視線を向ける
彼もにこやかに笑い、

「ひどい言われようだね、私は
私の妃も心から私に仕えてくれているよ」

入って来た時から口数の少ない彼は、そう言ってまた黙った

「兄上はあまり口を開かないからな
やっぱり観賞用が向いている」

ガハハと笑ってイルがユナを見た

「からかって悪かったね、君があまりにも緊張した目で俺や兄上を見てたから、つい面白がってしまった
兄上の顔に見惚れるのは後宮での洗礼みたいなもの、だそうだ」

妃がそう言っていた、と言葉を落としたところで飲み物と食事が運ばれてきた

「さあ、食事にしよう」

ソウの声によってグラスや食器に手をかける音が立った

ユナもグラスを手に取り、コクンと水を飲み込んだ



確かにカイ王子の美しさに目を奪われた
でも何か違う
ただ美しいだけならこんなにも動揺したりしない

寸分違わず思い描いてきたそのままの姿だったからだ
だから彼を初めて見た時も“ソウ王子”だと、直感めいたものがあった
でもどうしてこんなにも本人に忠実な偶像を思い描いていたのだろう…


『洗礼』だと諭されても尚、鬱々とした表情から抜け出せないユナを、ソウは翳りのある瞳で見つめていた




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