王子の結婚

「ユナさま、ソウ王子は政務が立て込んでいるそうで、夜までは時間が取れないそうですので、ご夕食を一緒に、との事でしたがお返事は如何なさいますか?」

昨日、紹介されたユナの身の回りの世話をしてくれるキーナから、ソウ王子との対面の伺いを立てられたが、まずは気になる事がある

「昨日も言ったのだけど、もう少し崩して喋らない?キーナがそんなにかしこまって話すとこちらまでそうしなくちゃって思ってしまいます
ずっと側にいてくれるのだから、もっと友人のような付き合い方がしたいわ」

キーナは従者として当然の振る舞いをするのだが、ユナとしてはそれでは気の休まるところがなかった

王宮にはもちろん知り合いなどいない、独り…

それでもここに来られたのは自分が心からソウ王子との結婚を望んでいるから
彼に会いたいから

だからといって孤独なのも耐えられない
ユナは社交的で、誰とでもすぐに打ち解けられる性格ではあったが、王宮ではそう易々と仲良くなれる雰囲気はないし、歳の違い者も少ない


「私のようなただの女官が、王子の正妃になられますユナさまにそんな態度は取れません」

キーナは頭を深々と下げながら感情のこもらない声を出す
そんなキーナの姿に寂しくなった

「私はここにたった独りで来たの
お願いだからキーナは私を余所者のような扱いはしないで
あなたと信頼し合える友人のような関係になりたいわ
すぐには無理でも仕方ないけれど、徐々にでいいの、私に心を開いて」

キーナに向けた笑顔はどこか悲しみを含んでいる
ユナは感情表現が豊かで、すぐに表情に現れる


キーナはその表情に心を揺さぶられた

王宮では皆、笑顔は浮かべても感情は現さない
腹の中では何を考えているのか分からない者ばかり

ユナのような分かりやすいタイプは珍しかった

昨日、今日会ったばかりの相手に心の内を晒すユナは、他の者よりも理解し難い

それは本心なのか、狡猾に考えられた邪心なのか








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