東堂くんは喋らない。
「……みんな、よく、今日まで頑張ったな。
時には辛いこともあったと思う、涙を流すこともあっただろう。
でもな、みんな今日までの毎日を、自信に変えてこれからを…!!」
「…卒業式かよ」
長々とした話に、思わずそんなツッコミを入れてしまう俺。
残る、本日最後の種目。選抜代表リレー。
入場口で山本が「円陣組むぞ!」と言い出すなり、そんな卒業式の校長か?とでも言いたくなる熱い話が始まったのである。しかも長い。他のクラスもうとっくに並んでるから。
「…とにかく!」
俺のツッコミに頭を切り替えたらしい山本が吠えた。
「目指すは優勝のみ!いくぞチーム山本!!」
「お、おー…」
誰がチーム山本だ。
微妙に士気が上がらないまま入場し、それぞれの待機場所に向かった。
別れる直前、遠藤がサッと松原の方を振り向き、「バトン全力で渡しいくわ!」と言って拳を合わせてたのが視界の隅に入った。
…それにどうしようもなく募るのはイライラ。
いや分かってる、笑顔で拳を合わせ返してる松原は何も悪くないことは嫌ってほど分かってんだよ。
分かってるけど
「…ど、どしたの東堂。そんなコワい顔して」
「…何でもない」
隣を歩いていた黒沢が凄い目で見てくるので、なんとか口角をあげて誤魔化してみたけど絶対に誤魔化し切れていないだろう。
「東堂くん!走る時は腕は縦!オッケー?」
「…うん」
いつの間にか、俺のコーチと化している黒沢に軽く頷いて、別れた。