幸せそうな顔をみせて【完】
 既存先の営業と新規開拓の営業では難しさが違う。でも、会社が発展していくためには新規の取引先を増やさないといけない。それは難しいけど、営業の仕事をしているなら大事なこと。会社に入って三年目の私はそろそろ新規開拓の営業を視野に入れる時期になっている。同期の副島新は既に新規開拓の営業を始めていた。


 今回は尚之からの電話があったと言うのもあるけど、そういう意味ではいい勉強になると思う。自分で営業のノウハウを身に着けるのも大事だけど、より優れた社員の営業方法を倣うのは大事なこと。それも小林主任なら勿体ないくらいだ。


「勉強させて貰います」


「そうそう。それくらいの気持ちで向かうのがいい。俺と中垣がついているから契約は必ず取れるから安心していい」


 凄い自信だと思った。今日は試用期間のための納品なのに、小林主任の中では今日が勝負の時だということ。だから、普段なら一週間掛かる納品も土日を挟んだだけでするし、急であるのに研究所から主任研究員まで連れてくる。私はそこまで思ってなかった。まだ、今日が勝負だとさえ分かりもしなかった。


「頑張ります」


「ああ。気楽に行こう」


 私は小林主任に頭を下げてから自分の席に戻るとちょうど出勤してきた副島新と目が合った。ドキッと飛び跳ねて、さっきまで一緒に居たことを思い出させた。日曜の夜に自分のマンションに帰るつもりだったけど、結局は帰れなくて、私は副島新のマンションを早めに出て、自分のマンションに一度戻ってから出勤した。


< 278 / 323 >

この作品をシェア

pagetop