幸せそうな顔をみせて【完】
 私は副島新が欲しいものというから、仕事で使うものとか、ネクタイとかそんなものを考えていた。でも、そこは貴金属を扱うアクセサリーのテナントで、それも有名ブランドの店だから私は入って行こうとする副島新の手を引っ張った。店頭から覗くと中には綺麗に磨かれたショーケースの中にキラキラと輝くアクセサリーが並んでいる。


 さすがにここは場違いだと思った。


「まさかここ?」


「ああ」


「何を買うの?」


「葵の指輪」


 指輪って…。副島新は何もなかったかのようにサラッというけど、指輪なんていきなり過ぎる。さっき段階を踏んでいけばいいと言っていたけど、指輪となると段階とか吹っ飛ばしている。


 だから私の口から零れた言葉も至極当然だったと思う。


「いらない」


 私の言葉に副島新は一瞬にして眉間に皺を寄せる。でも、いくらなんでもそれは貰えないと思った。別に婚約をしたわけではない。結婚を前提としたお付き合いとは言っていたけど、それは付き合っていく先に結婚というものがあるかもしれないけど、始まったばかりの恋に…指輪は早すぎる。


「何で?俺のこと嫌いなのか?」


 嫌いって…好きに決まっている。ずっと好きだった。


 でも、私が指輪をいらないというのは昨日からの展開の早さについていけないだけであって、決して嫌いなわけじゃない。でも、それをどうやって説明したら、私の気持ちを分かってくれるのだろうか?

< 73 / 323 >

この作品をシェア

pagetop