ご懐妊は突然に【番外編】
「相手は社内か?社外か?」

「社内ですね」

おお!と言って桶川部長はあごに手を置き考える。

「父親は小坂か?!」

「違いますよ」

何かを思いついた様に、桶川部長はハッと目を見開いた。

「ここに呼び出すってことは…まさか…」

「そのまさか、だと思います」

私の回答に桶川部長は驚愕の表情を浮かべ絶句する。

その時、ドアがノックされガチャリと開いた。

「社長!」

私と桶川部長は声を揃えて振り返りる。

「遥さんが来ていると秘書に聞いたものでね」

お義父さんはイタズラっぽくウィンクする。

どうやら心配半分、冷やかし半分で様子を見に来たらしい。

「社長!この度は誠におめでとうございます!」

桶川部長は直立不動で立ち上がる。

お義父さんは「おや?」と言うように目を大きく見開く。

「実は、今桶川部長に妊娠の事をお話ししていたところなんです」

そうかそうか、と言ってお義父さんはコクコク頷く。

「それで、その、ご結婚をされるとか…」

桶川部長は様子をさぐるようにチラリとお義父さんへ視線を向ける。

「そうだな。遥さんのお腹が目立たないうちに式を挙げようかと思っている」

それはそれは、と言って桶川部長は愛想笑いを浮かべた。

「こんな若くて美しい奥様で羨ましい限りです」

私とお義父さんはキョトンとする。

「ご結婚おめでとうございます!社長!」

桶川部長は90度に腰を曲げて深々とお辞儀した。

なんだか激しく誤解されているようだ。
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