ご懐妊は突然に【番外編】
「まぁ、アキちゃんは昔っから破天荒な所があったからねぇ」

葛城母は頬に手を当てて小さく溜息をついた。

「確かに世間体はあまりよくないかもしれないが、一人くらいは私達の期待を裏切るような事があっても仕方のないことかもしれないなぁ」

葛城父は諦めたように遠い目をしている。

『世間体』という言葉を耳にして私の心臓は大きく跳ねた。

次女が駆け落ちした上に、長男が迂闊にもできちゃった結婚となると、パーフェクツに思えた四人兄妹のうち二人が葛城夫妻の期待を裏切ることになるかもしれない。

なんか…妊娠した事が言い辛い展開になっちゃった。

私はゴクリと唾を飲んだ。


夕飯を食べ終えると、私と匠さんは離れへと戻った。

寝る準備を整えて、二人で洗面所で歯を磨く。

「そういえば、遥も何か話があるって言ってなかった?」

「大した話じゃないの。まだよく解らないからまた後で」

…本当はアキコさんの駆け落ちに匹敵するくらい、いや、それ以上の重要案件だけど。

そうか、と匠さんは気に留めるようすもなく相槌を打つ。


あなたたちのこと、隠すような真似をしてごめんね。

私はそっと下腹を撫でた。


その晩ベッドに入ると、例により、例のごとく、匠さんはすり寄ってくる。

「今日は…疲れてるから」と言って、私は珍しく仲良くすることを拒んだ。

もしかして無茶をさせられたら、赤ちゃんにどんな影響が出るのか解らなかったから。

匠さんは不満気だったが、渋々諦めてくれた。
< 3 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop