elevator_girl




それから....
しばらくの間、日曜の度に

深町の言うように、バスキング(路上ライブ)を繰り返しては見たものの

彼女には出逢えなかった。
松之は、それなりに演奏を楽しんでは居たものの
曲が終わると、やっぱり現実に戻って
少し淋しくなるのだった。

それで、深町に少し抗議?して...
「全然出逢えないなぁ。」と。言ってみたが

「まあ、もし駄目だったら、それも相性のうちかな......。」
なんて、彼らしく、深町はいい加減な事を言う。
松之はすこし腹を立てて、深町を睨む振りをすると....

「あ、渡り鳥。」....と、深町は空を指さす。

松之も、つい、釣られて空を見ると
雁だろうか、ひらひらと、もう、初夏のような
遅い午後の空を北の方へ向かっていくのが見える。

「........。」鳥は自由でいいな、と松之は思う。
ひとりで想っているだけなら、自由なのに
現実にしようとすると、どうしてこんなに縛られるんだろう、と..

松之は、鳥の自由さを羨んだ。
人間みたいな制度もないから、鳥たちは恋すら
自由なんだろう、とも思った。
どこまでも飛んで行けて、空の上からなら
想う相手を探し出せるだろう。
たぶん、相手も空に居るからだ.....。




「鳥かぁ。」と、深町が呆けたように言うので
松之は、幻想から現実にもどる。

「太ったトリは相撲トリ、
来てほしくない借金トリ、
あたしゃしがない月給トリ。」

深町は、落語家のようにおどけて。


「なんだ?」と、松之は面食らう。


「洗濯屋さんはランドリー、
芸事、家元、本家に名トリ」

「わはははは。」
調子よく続くので、松之は愉快になった。


「ようやく笑ったか。」と、深町は笑顔でそう言う。

官庁街の向かい、お城跡公園前の舗道で
楽器を抱えたまま、こんな事をしていたので
新しいパフォーマンスか、と、人だかりがしてきてしまった。

そう言えば、この街はパフォーマンスの祭りがあるのだった。と、深町は思い出した。

「ご来訪、ありがとうございまーす。じゃ、次の曲。」

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