印堂 丈一郎の不可解な生活
「お、お言葉ですけど、サー…」

古城最上階のバルコニーに出て、月明かりを浴びていたサーに対し、私は恐る恐る言う。

「丈一郎は来ないかもしれません…」

「何故そう思う?」

眷属如きが意見した事も、反論した事も怒りもせず、背を向けたままサーは訊ねた。

「だ、だって…サーは滅びの五人と呼ばれる、人間達にとっては最凶の化け物の一人…しかもその中の筆頭格と考えられている化け物です…本気を出せば調息使いだって太刀打ちできないのは道理…それが分かっていてわざわざ立ち向かってくる馬鹿はいないと思います…ましてや助ける相手が、同じ化け物である私だなんて…」

「ほほぅ…」

サーは振り向いた。

「貴様はこの俺が認めた男が、俺の予想に反すると?貴様を見捨てて臆病にも逃げ隠れすると?」

「いっ、いえっ、そ、そういう訳ではっ…」

サーに一言でも異を唱える事は、死を意味する。

私は失禁しそうなほどに震え上がった。

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