黄昏と嘘


あ。そうなんですか。余計なことですか。

そう思いながらも何をどう答えていいかわからない彼女に、今度はアキラの方から声をかける。

「キミ、時間は……、なんだ?その格好は?」

こちらを見たアキラは明らかに不快そうな顔をする。

チサトはそんな表情をするアキラに自分の何がおかしいのかと不思議に思い、下を向き、格好を確かめる。
今の彼女の姿は朝起きたままの格好、つまりパジャマとボサボサ頭。

けれどいつもモモカと暮らしていてチサト自身、常にその格好でいたから特に違和感もなかった。
だからチサトはアキラの言葉が理解できなかった。

普通、好きな男性の前では変な格好を見せたくない、そう思うのが普通なのかもしれないが、チサトの場合、少し違っていて、そういうことをしてもやがて疲れてしまうだけなのだから、格好つけずにいつもの自分でいることが一番いいのだと思っていた。

だから特にアキラの前だからと言ってボサボサ頭のパジャマ姿を見せたくない、と思うことはなかった。


いつまでもぼんやりと不思議な顔をしているチサトにアキラはうつむきながらため息をつき、首を左右に振って再び口を開いた。

「……キミ?時間あるか?」

チサトは自分の格好を指摘されたことよりもアキラに「キミ」と呼ばれることが気になった。
アキラはどういうつもりか、いつも彼女のことを「キミ」と呼んでいた。
それはチサトにとって自分の名前をちゃんと理解してくれているのだろうかと最近、疑問に思い始めていたことだった。



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