黄昏と嘘


「でも……先生。
私、カード持っていないから自販機では買えませんよ?」

そう言うとアキラは手を止め、顔をチサトの方へ向けた。

「なんだ……。役に立たないんだな」

「あの、先生のカード貸してくれたら……」

一応、チサトは21歳だ、だからタバコは年齢的に購入することはできる。
でも吸わない彼女は購入カードは持っていない。店頭で買うのなら見せのひとに身分証明を見せれば買うことはできる。でも自販機の場合はカードがないと購入することはできない。
だから彼女はアキラからカードを貸してもらおうとそう言った。

「カードが見当たらないから頼んだんだ、それなら自分で適当に買う」

そう言いながらアキラはテーブルにあった箱からタバコを取り出した。
どうやら最後の1本だったらしく空になったその箱を握りつぶし、そのままゴミ箱に放り入れた。
そして無造作にタバコに火をつける。

チサトはそんなアキラの仕草をぼんやりと眺める。
どうやら今日も機嫌が悪そうだ、怒ってるのだろう、
さっき見たピアノの時の彼は幻だったのかもしれないとまで感じた。

いや、今日に限らずきっと彼女の些細な仕草、言葉に対し、いつも彼は不快に思うのかもしれない。
チサトはだんだんといたたまれなくなる。


やっぱり私、ここにいないほうがいいのかなあ。
それなら早くなんとかしないと。
約束は3ヶ月だけど。


早く。




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