黄昏と嘘

避けられている、そして自分も避けている、そんなことを思っているまま、日々は過ぎ、結局チサトはアキラに出て行くことさえ伝えられず、当日を迎えてしまったのだ。
そしてまた当日になっても顔を合わせることすらできず、チサトは夕方には出て行くというのに、もう今は午前中も終わろうとしている。

出て行くことはともかく、アキラに一言、謝罪の言葉を伝えたいと思ったけれど、何をどう伝えたらいいのか、声にして伝えるとなんだか薄っぺらな感じがして、そしてふたりが無意識に互いを避けていることもあって伝えられないまま、時間だけが過ぎてしまった状態だ。

期限が迫ると決心が鈍ってきそうな気がした。
このままでは言えなかった、だから出ていけない、なんてことを考えてしまうかもしれない。
チサトはそんなことにはならないようにと携帯電話を取り出して今日の特急指定券の予約を入れることにした。


予約サイトに繋がった一瞬、彼女の指が止まる。
ここで予約したらせっかくここまでアキラとの距離が近くなったのにすべて元に戻ってしまう、予約がいっぱいで指定席が取れなかったらいいのに、ここまできても諦め悪く、そんなことを思ってしまう。

しかし彼女は首を左右に振り、それは違う、このままここに残ることがアキラにとっていいことではないのだと言い聞かせる。

それに彼との約束も3ヶ月だったのだからそれが少し早くなったと思えばなんともないはずだ。


……明日、月曜にはまた先生と教室で会えるから。もう会えないんじゃなくてまた翌日、授業で会えるのだから。


ぼんやりと見つめ続けていた画面。

彼女はふう、と息を吐き、そして電車の予約を入れた。
心のどこかで願っていた「満席」という文字は画面に現れることはなかった。


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